連続講座
陽楽の森から考える
新常態〈 ニューノーマル 〉の輪郭

第2回
2022.7.16 土


林業と技術
イメージと実像
大住 克博

林学・森林生態学/大和森林管理協会顧問、鳥取大学名誉教授、元森林総合研究所主任研究員、森林施業研究会元代表、大阪市立自然史博物館外来研究員
愛知県出身。京都大学農学部卒業。森林総合研究所、鳥取大学農学部を経て現職。

『森林の変化と人類』(分担執筆・共立出版・2018)、『里と林の環境史 (シリーズ日本列島の三万五千年−人と自然の環境史)』(共編著・文一総合出版・2011)、『森の生態史−北上山地の景観とその成り立ち』(共編著・古今書院・2005)。「北上山地の広葉樹林の成立における人為攪乱の役割に関する研究」にて日本森林学会賞受賞(2007)。


*「R y」とは、間伐のために木々の混み具合を判断する指数です。
 「0.9」は、超過密な状態です。(大住)

大住克博さんは、林学・森林生態学がご専門です。林業政策や林業技術の抱える矛盾を育成林業の歴史や林業技術の脆弱性から考察してこられました。日本の林業政策についても、国際的動向に照らして問題点を指摘しています。そして、次のように問いかけます。現代において人々のなかに潜在的に認められる「森」に対する期待やニーズ(「チャイムの鳴る森」にたった2日間で5000人もの人が訪れたのもその現れでしょう)と、現行の林業政策の間に存在するギャップに対して、森林・林業の研究は関心をまったく払っていないが、しかし、そのギャップを埋めていくことこそ、ほんらいの学問的営為ではないだろうかと。「林学」は森林「科学」には収まらず、歴史な視点にもとづく総合的な学問であるべきだと論じていらっしゃいます。第2回では、みなさんと、大住さんのこのような問題関心を共有したいと思います。

アーカイブ動画
(2023.4.22更新)

第2回のポイント

大住さんから、人と自然(森林)との相互作用の一つとして位置づけられる「林業」について、それが基本的に抱えてきた問題点を、とくに技術という人と自然の直接的な媒介・接点に注目した考察をお話いただきます。また、森林・林業にかかわる研究がほんらいどのような課題を見つけて追求するべきなのか、林業政策の社会的責任という視点からも考えます。なお、大住さんは、第3回で言及される総合地球環境研究所「環境史」プロジェクトにも参画しておられます。

報告編

*サブタイトルが予告とは変わりました

講演スライドは、次のような構成でした。
・ 林業は理解されている?
・ 林業の歴史を振り返る
・ 林業は農業の兄弟か?
・ 林業はまだ自画像を描けていない

印象的だった言葉は、
  • 「林業は衰退したのではなく、まだ立ち上がっていない」
  • 「農業と比較して、林業に特有の条件とは→農業は育成期間が1年なのに、林業は超長期→市場の調整が効かない、育成コストが忘れられてしまう、PDCAサイクルが機能しないから経験や検証結果が改善に結びつかない」
  • 「林業は歴史が浅いのでシステムとしては未発達だが、遅れた農業ではない。あくまで『未完の林業』」
  • 「『林業の自画像』を考える→多様なシナリオがあってよい。環境に合わせて多くのニッチが生まれると、ニッチの多様さは種の多様さに結びつき、多様性は全体の安定性を生む。林業の最適解は、地域、環境、歴史、社会的状況によって異なるはず 」
林業と技術-報告編
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