連続講座
陽楽の森から考える
新常態〈 ニューノーマル 〉の輪郭

第6回
2022.11.19 土

菌の声を聴く
タルマーリーの動的なモノづくり
渡邉 格

タルマーリー・オーナーシェフ。
東京都出身。千葉大学園芸学部卒業。2008年千葉県いすみ市にてタルマーリー開業。真庭市勝山を経て、2015年鳥取県智頭町に移転し「野生の菌で醸すパン・地ビール&カフェ」タルマーリー開業。

『菌の声を聴け-タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案』(渡邉麻里子と共著・ミシマ社・2021)、『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社・2013)

タルマーリー https://www.talmary.com

LONG LIFE DESIGN 2 祈りのデザイン展-47都道府県の民藝的な現代デザイン-https://www.d-department.com/item/DD_EVENT_24263.html
(鳥取県からは「動的ものづくり」を唱えるタルマーリーが紹介されている)

渡邉格さんは、鳥取県智頭町で、野生の菌でパンとビールを作っています。パンのもととなる酒種の麹菌による発酵は、かつては日本各地の酒蔵で見られましたが、いまでは2~3軒しか残っていません。それは技術が廃れたのではなく、菌が繁殖する環境が失われたからです。たとえば、自動車の交通量が多いとか、農薬散布があると、麹菌がとれずに他の菌が繁殖してしまいます。野生の菌は工業化された純粋培養の菌と違って暴れるので扱うのは大変ですが、それだけに生命力を引き出すことによる滋味があります。タルマーリーでは、野生の菌だけでなく、小麦粉も自然農法によって栽培された小麦を自ら製粉して使っています。かつて日本の村々では収穫した小麦を挽いていましたが、いまでは大手の製粉会社の独占となり、粗い小麦粉が手に入りません。こうして味覚さえも工業化に慣らされてしまっているのです。

第6回では、パンクロックのようにとんがった、個性あるパンやビールをつうじて、食べることの意識を変えること、そのことは食にとどまらず、文化や生きることへとつながるという、タルマーリーの問題提起を共有したいと思います。

第6回のポイント

第5回に引き続き、「目にみえてない世界」への視点をさらに深めていきます。「植物の生長に依拠した社会発展もしくは文明」を構想するとき、植物の生長を支える「菌の世界」について知ることは、「土中環境」とともに必須です。近年は「発酵」や「分解」への関心も高まってきています。それと同時に「食」をつうじて、どのような出会いがうまれるか。そこには「菌」が醸し出す社会関係への信頼がよこたわっているように思われます。すなわち、文化運動の様相を帯びてきます。「陽楽の森」がそのような拠点となることを目指したいと思います。

アーカイブ視聴
(2023.4.22更新)

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予告編 - 講座のオススメ

 タルマーリーは、鳥取県智頭町で、野生の菌でパンとビールを作っているカフェです。 渡邉格さんは、そのオーナーシェフです。タルマーリーは、はじめ千葉県いずみ市で創業し、そのあと岡山県真庭市勝山に引っ越し、そして智頭町にやってきました。智頭町に来た理由は、野生の菌を採取する環境を求めてのことです。森のようちえんに子どもを通わせたいという気持ちもありました。

 写真は、智頭町の旧那岐小学校と保育園。ところで、この保育園に子どもを入れたいと思って智頭町に越してきた女性が、保育園が閉じてしまったことから、自分で立ち上げたのが「森のようちえん まるたんぼう」でした(いまの、智頭の森こそだち舎)。


 渡邉さんがおっしゃるには、パンのもととなる酒種の麹菌による発酵は、かつては日本各地の酒蔵で見られたが、いまでは 2~3 軒しか残っていないそうです。それは技術が廃れたのではなく、菌が繁殖する環境が失われたからとのこと。

 たとえば、自動車の交通量が多いとか、農薬散布があると、麹菌がとれずに、別の菌が繁殖してしまいます。また、野生の菌は、工業化された純粋培養の菌(イースト菌など)と違って暴れるので扱うのは大変なのだそうですが、それだけに生命力を引き出すことによる滋味があります。このあたりが、「動的なモノづくり」という由縁です。

 小麦粉も自然農法で栽培された小麦を自家で製粉して使っています。いま智頭町の農家に、自然農法で小麦粉の栽培を依頼しています(まだ生産量が十分でなく、すべて智頭町産小麦というわけではありません)。かつて日本の村々では、水車その他を使って、収穫した小麦を挽いていましたが、いまでは大手の製粉会社の独占となってしまい、粗い小麦粉が手に入らないそうです。味覚さえも工業化に慣らされてしまっているといえるでしょう。
 そのようななかで、タルマーリーは「パンク」に、パン作り・ビール作りをしています。林業を始めた青年たち「智頭ノ森ノ学ビ舎」のメンバーも、ホップを作り始め、タルマーリーに卸しています。その一人は、この保育園の卒園生で、たった 13 軒の集落に住んでいますが、歩いて数分のタルマーリーで、自分の作ったホップで醸した、とびきり美味しいビールを思う存分飲むという、なんとも山の中の過疎な土地だからこその贅沢を味わっています。渡邉さんも、彼ら若い林業者たちが、山を壊さず、森を育てているから、麹菌を空気中から採取できるこの環境が維持されているのだと言って、タルマーリーの薪ストーブ用に彼らの作った薪を購入にしています。
 タルマーリーの発酵と地域内循環が、このイラストのままに動き始めています。