タルマーリー・オーナーシェフ。
東京都出身。千葉大学園芸学部卒業。2008年千葉県いすみ市にてタルマーリー開業。真庭市勝山を経て、2015年鳥取県智頭町に移転し「野生の菌で醸すパン・地ビール&カフェ」タルマーリー開業。
『菌の声を聴け-タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案』(渡邉麻里子と共著・ミシマ社・2021)、『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(講談社・2013)
タルマーリー https://www.talmary.com
LONG LIFE DESIGN 2 祈りのデザイン展-47都道府県の民藝的な現代デザイン-https://www.d-department.com/item/DD_EVENT_24263.html
(鳥取県からは「動的ものづくり」を唱えるタルマーリーが紹介されている)
渡邉格さんは、鳥取県智頭町で、野生の菌でパンとビールを作っています。パンのもととなる酒種の麹菌による発酵は、かつては日本各地の酒蔵で見られましたが、いまでは2~3軒しか残っていません。それは技術が廃れたのではなく、菌が繁殖する環境が失われたからです。たとえば、自動車の交通量が多いとか、農薬散布があると、麹菌がとれずに他の菌が繁殖してしまいます。野生の菌は工業化された純粋培養の菌と違って暴れるので扱うのは大変ですが、それだけに生命力を引き出すことによる滋味があります。タルマーリーでは、野生の菌だけでなく、小麦粉も自然農法によって栽培された小麦を自ら製粉して使っています。かつて日本の村々では収穫した小麦を挽いていましたが、いまでは大手の製粉会社の独占となり、粗い小麦粉が手に入りません。こうして味覚さえも工業化に慣らされてしまっているのです。
第6回では、パンクロックのようにとんがった、個性あるパンやビールをつうじて、食べることの意識を変えること、そのことは食にとどまらず、文化や生きることへとつながるという、タルマーリーの問題提起を共有したいと思います。
第5回に引き続き、「目にみえてない世界」への視点をさらに深めていきます。「植物の生長に依拠した社会発展もしくは文明」を構想するとき、植物の生長を支える「菌の世界」について知ることは、「土中環境」とともに必須です。近年は「発酵」や「分解」への関心も高まってきています。それと同時に「食」をつうじて、どのような出会いがうまれるか。そこには「菌」が醸し出す社会関係への信頼がよこたわっているように思われます。すなわち、文化運動の様相を帯びてきます。「陽楽の森」がそのような拠点となることを目指したいと思います。